認知的断想/“ワーキングメモリ”という用語の初出 - 井関龍太のページ

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認知的断想/“ワーキングメモリ”という用語の初出

Last-modified: 2014年09月06日 (土) 18:34:49 (1536d)
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ワーキングメモリ(working memory)という用語の初出はBaddeley & Hitch(1974)ではない,というのは何かで聞いたことがあったのですが,では何が初出なのかというのはあまり気にしていませんでした。

先日,論文を読んでいたところ,次のような記述を見つけました。

“ワーキングメモリという用語は,最初は,Miller,Galanter,Pribramによって1960年に用いられたが,〔この時点では〕ごく簡単に,プランとゴールの一時的な保持のためのシステムとして非常に一般的な意味で述べられていた。”(Logie et al., 2007, p. xiii)

Miller et al.(1960)という文献は,“Plans and the structure of behavior”というタイトルの本です。
ちなみに,このMillerは,G. A. Miller,すなわち,あのマジカルナンバー7のMillerです。
こうしてみると,Millerはマジカルナンバーに加えて,ワーキングメモリという語も心理学に導入した功績があるといえるかもしれません。

少し調べてみると,ワーキングメモリという語の初出がMiller et al.(1960)であるというのはどうやらある程度一般的な認識のようです。

ワーキングメモリという用語がどこからきたのかは明らかではないが,それはMiller,GalanterとPribram(1960)によるプランと行動の構造という重要な,先進的な本において既に用いられていた。”(Cowan, 2005, p. 19)

“このセンターはそのような大事業にふさわしい場であるように思われる。Miller,GalanterとPribram(1960)は,プランと行動の構造という認知科学への古典的な貢献を生み出す際に,この場で‘ワーキングメモリ’という用語を考案したと思われるからである。”(Baddeley, 2007, Preface xi)

ただし,こうした引用の後には,この用語の意味を確定したり,一般に広めたりしたのは,やはりBaddeley & Hitch(1974)であろうといったことが述べられています。
Baddeley(2007)はやや違っていて,自分とHitchがこの用語を得たのは,Atkinson & Shiffrin(1968)の方からだったと思う,といったことを述べています。

とりあえず,用語自体の初出はMiller et al.(1960),(おそらくは)専門用語としての認識のもとに使用したのがAtkinson & Shiffrin(1968),それを広めたのはBaddeley & Hitch(1974)といったところではないでしょうか。
何となく,「織田がこね,羽柴がつきし天下餅,座りしままに喰うは徳川」という狂歌を思い出しました。
もちろん,徳川氏もBaddeley & Hitchもただ座っていたわけではありませんが。


Atkinson, R. C., & Shiffrin, R. M. (1968). Human memory: A proposed system and its control processes. In K. W. Spence (Ed.), The psychology of learning and motivation, vol. 2 (pp. 89-195). New York: Academic Press.
Baddeley, A. (2007). Working meory, thought, and action. UK: Oxford University Press.(バドリー, A. 井関龍太・齊藤智・川﨑惠里子 (訳) (2012). ワーキングメモリ-思考と行為の心理学的基盤- 誠信書房)
Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1974). Working memory. In G. H. Bower (Ed.), The psychology of learning and motivation, Vol. 8 (pp. 47-89). New York: Academic Press.
Cowan, N. (2005). Working memory capacity. New York: Psychology Press.
Logie, R. H., Osaka, N., & D'Esposito, M. (2007). Working memory capacity, control, components and theory: An editorial overview. In N. Osaka, R. H. Logie, & M. D'Esposito (Eds.), The cognitive neuroscience of working memory. Oxford University Press. pp. xiii-xvii.
Miller, G. A., Galanter, E., & Pribram, K. H. (1960). Plans and the structure of behavior. New York: Henry Holt and Company.(ミラー, G. A.・ギャランター, E.・プリブラム, K. H. 十島雍蔵・佐久間章・黒田輝彦・江頭辛晴 (訳) (1980). プランと行動の構造-心理サイバネティクス序説- 誠信書房)

(2008-09-01)
Tag: 記憶
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