認知的断想/プロ仕様のSPSS - 井関龍太のページ

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認知的断想/プロ仕様のSPSS

Last-modified: 2013年09月28日 (土) 16:36:32 (1871d)
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SPSSの反復測定オプションを使ってみました。

いつからかはわかりませんが,最近のバージョンでは,反復測定の分散分析(被験者内要因を含む分散分析)をすると大量に見慣れない指標が出てくるようになりました。

その中で,いつもどうしたらいいんだろうと思っていたのが球面性検定のコーナーです。
とりあえず,この部分が有意になっていると分散分析の仮定が成り立たないということは(『SPSSによる分散分析と多重比較の手順』で)知っていました。
しかし,成り立たないときにどうしたらいいのかということについては曖昧に理解しているだけでした。

最近少し勉強したところによると,球面性の仮定が成り立たない場合は,ε(イプシロン)という値によって自由度の調整を行った分散分析をすればよいとのことがわかりました。
εは0~1を取る値で(1を越える場合は1と見なします),これをF検定の際の自由度にかけることによってデータをF分布に近似させます。
SPSSの出力を見ると,確かにMauchlyの球面性検定のコーナーにはイプシロンと書かれた値が3つ載っています。

……3つ?

そうです。
SPSSの出力では,3つのεが常に出てきます。
分散分析表を見ると,球面性の仮定が成り立っている場合の結果と併せて,各効果について合計4つの結果が併記されています。
これではどこを見ていいのか迷ってしまいます。

3つのεは,それぞれ,Greenhouse-Geisser,Huynh-Feldt,下限となっています。
Greenhouse-Geisserは,最も一般的に使用される調整値です。
ただし,この調整値は,値が高いときには自由度を厳しく調整しすぎることがわかっています。
そこで,値が高いときに自由度をもう少し緩めに調整するために作られたのがHuynh-Feldtのεです。
目安として,Greenhouse-Geisserのεが0.75より高いときは,Huynh-Feldtを使うのがお勧めだそうです。
下限は,εの取りうる値の理論的下限値です。
この値はコンピュータがなくても計算できます。
検討している要因について,1/(水準数-1)が下限値になります。
この式を見てもわかるように,水準数が2の要因ではεの下限値は1になります。
水準数2のときは常に球面性の仮定が成り立つので,調整は必要なしというわけです。

さて,以上のように見てみると,何も3つすべてをいっぺんに表示しなくてもよさそうに思えます。
球面性検定の結果が有意であった効果に対して,Greenhouse-Geisserのεが0.75以上のときはHuynh-Feldt,それ以外のときはGreenhouse-Geisserで調整した結果だけ表示すればよいのではないでしょうか?

しかし,そう簡単にはいかないようです。
一般には,効果によってεを使い分けることはしないそうなので(入戸野, 2004),一度に使うのはGreenhouse-GeisserとHuynh-Feldtのどちらか一方になります。
また,球面性検定は現状では万全のものとはいえないようで,球面性の仮定について疑わしいときには(検定に関わらず)ε調整を行うことが望ましいとテキストには書かれています(Winer et al., 1991, p. 259)。
そうすると,この示唆にしたがった場合には,おそらく,球面性検定が有意であった効果だけでなく,すべての効果についてε調整をかけることになるのでしょう。
したがって,調整なし(球面性を仮定)の結果とGreenhouse-Geisser,Huynh-Feldtの結果をすべて併記する意味はあります。

では,下限値はどうなのでしょうか。
この下限値は,コンピュータがまだそれほど普及していなかった時代,εを計算する手間を省くために使われていました。
つまり,最も厳しい調整を行う下限値を使ってもまだ有意なら確実に有意であろう,というものです。

これは3段階手続きと呼ばれ,

(1)通常の分散分析
(2)下限値による調整
(3)Greenhouse-Geisserのεによる調整

を順番に行うものです。

(1)の通常の分散分析で有意でなかった場合は,後の検定で有意になることはないのでここで終了です。有意であった場合は(2)に進みます。
(2)の下限値による調整で有意であった場合,先に述べたように,最も厳しい基準で有意であったわけですから,ここで終了です。有意でなかった場合は(3)に進みます。
(3)では,εを計算して調整を行い,最終的な結果を判定します。

つまり,この方法によれば,通常の調整なしの検定で有意,かつ,下限値で非有意の場合にのみεを計算すればよいわけです。

しかし,現在では,SPSSはすべての値を一挙に計算してくれるので,いきなり(3)に進んでGreenhouse-Geisserのεによる調整結果だけを見ればよいことになります。

それでは,今の時代には,下限値は必要がないのでしょうか?

いや,ありました。
Geisser-Greenhouseの保守的検定という方法があります。
これは,とにかく下限値による調整だけを行うものです。
先ほどの3段階手続きの(2)だけを行うという厳しい検定です。
ただ,統計のテキストでは,「非常に保守的すぎるので,その一般的な採用を薦める人はほとんどいない」(Howell, 1992, p. 446)と書かれてしまっています。

しかし,とにもかくにも,これですべての調整値を表示する意味は一通りあるといえそうです。

これまで見てきたように,εにはいろいろな使い方があるので,すべての値を出力しておけば好きな方法を選んで使えるというわけです。
これで球面性検定に合わせて使うことも,すべての効果にGreenhouse-GeisserやHuynh-Feldtを使うことも,3段階手続きを行うことも,保守的検定を行うこともできるわけです。

必要なものはすべて出すので後は好きに選んでください,というスタイルです。
これらの結果をどう使うかに関しては,ユーザーが試されることになります。
SPSSはクリックしていけば簡単に結果が出せるやさしいソフトなのだと思ってきましたが,実は結構プロ仕様なソフトなのだとわかりました。

SPSSは高性能ですが,それに見合ってなかなか高額なソフトです。
しかも,反復測定を使いたければAdvanced,プロビット分析がしたければRegressionと,新たな分析をしようと思うたびにオプションを追加購入する必要が出てきたりします。

プロに仕事を頼むにはお金がかかるのです。


Howell, D. C. (1992). Statistical methods for psychology (3rd edition). Duxbury Press.
入戸野宏 (2004). 心理生理学データの分散分析. 生理心理学と精神生理学, 22, 275-290. [Link to 著者ページ]
Winer, B. J., Brown, D. R., & Michels, K. M. (1991). Statistical principles in experimental design (3rd edition). Boston, Massachusetts: McGraw Hill.

(2007-08-27)
Tag: 統計
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