認知的断想/モーダルモデルの“モーダル”とは - 井関龍太のページ

ホーム   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 コピー 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS

認知的断想/モーダルモデルの“モーダル”とは

Last-modified: 2013年09月28日 (土) 18:01:09 (1871d)
Top > 認知的断想 > モーダルモデルの“モーダル”とは

短期記憶と長期記憶の2つの貯蔵庫,あるいは,感覚記憶も含めて3つの貯蔵庫を仮定する記憶のモデルは,モーダルモデル(modal model)と呼ばれることがあります。
このモーダルということばは何と訳すのが適当なのでしょうか?
英和辞典を参照すると,modalの訳としては“様態の”,“様式の”などがあります。
modalがmodeやmodalityと関係のある語だとすると,この訳はもっともなものでしょう。

しかし,“様態モデル”というのも,何か奇妙な気がします。

そうではなくて,ここでのmodalとは,実は流行という意味でのモードを指しているのではないでしょうか。
二重貯蔵庫,あるいは,三重貯蔵庫を仮定するモデルは,当時一世を風靡し,今でも大枠ではこの路線に沿った記憶モデルが前提とされることが少なくありません。
そうすると,“モード・モデル”,“最新モデル”あたりが日本語的な訳になるでしょうか。

英語圏の人はこの語の解釈に迷うことはないのかと思っていたら,Baddeley(1986)が以下のように論じていました。

“これはおそらくMurdock(1974)がモーダルモデルmodal modelと名づけたものに最も近しいものである。‘モーダル’という用語は,辞書の定義によると,‘モードに近づく’したがって最も頻繁であるという意味と‘構造を持っているが内容は持たない’という意味の2つの意味を持っている。このモデルの批判者は第二の定義を選んだが,Murdockは実は第一の定義を思っていたのではないかと私は思う。”(Baddeley, 1986, p. 16)

やはり,modalには,2つの意味があったようです。
第一の,“最頻の”という解釈は流行としてのモードの意味に近いと思われます。
そして,第二の解釈は“様態”に近いものと思われますが,“構造を持つが内容はない”という点が明確にされています。
批判者らは厳密な理論的観点からこの語を用いて議論していたのに対して,発案者は“例の,あの人気のモデルが~”くらいの意味で使っていたということでしょうか。

現在の観点からすると,モーダルモデルは流行最先端というわけではありませんが,それでも,大筋このモデルにしたがって記憶構造を説明することは一般的に行われています(最頻かもしれません)。
一方で,記憶にはいろんなモード(様態)があることを指摘したモデルである,ということも重要です。
そうなると,無理に訳さず,2つの意味を含んだ形で“モーダルモデル”と呼ぶのが順当なのかもしれません。


Baddeley, A. (1986). Working memory. UK: Oxford University Press.
Murdock, B. B., Jr. (1974). Human memory: Theory and data. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.

(2008-10-06)
Tag: 記憶
TrackBack(0) | 外部リンク元 | このエントリーをはてなブックマークに追加