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#author("2023-01-04T15:09:39+09:00","default:riseki","riseki")
多重比較における&color(darkorchid){''Bonferroniの方法''};といえば,Bonferroniの不等式に基づいて有意水準を比較の総数で割る方法です。
[[Bonferroniさん>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%8B]]はこの不等式を考案した数学者です。
おそらく,この式を多重比較の方法として適用したのがDunnという人なのでしょう(Bonferroniの方法の出典は,Dunnの単著とされることが多いので)。
それで,同じ方法がDunnの方法とか,Dunn-Bonferroniの方法と呼ばれることもあるのだと思います。
ただ,Bonferroniの不等式が肝なので単に“Bonferroniの方法”と呼ばれることも少なくありません。
ところで,たまにBonferroniの不等式を使っていないのに“Bonferroniの方法”とか“Bonferroniの仲間”とされる方法があります。
例えば,Holland-Copenhaverの方法(Sidakの不等式)やHochbergの方法(Simesの不等式)がそうです。
なぜBonferroniの不等式を使っていないのにBonferroniなの?と思ってしまうのですが,これらの方法はいずれも&color(darkorchid){''有意水準の調整に基づく多重比較法''};であるという点でBonferroniの方法と共通しています。
つまり,このように呼ばれるとき,“Bonferroniの方法”という名称は,“Bonferroniの不等式に基づいている方法”を指しているのではなく,“(Bonferroniの方法と同様に)有意水準の調整に基づく方法”であることを意味しているものと思われます。
Bonferroniの方法=Bonferroniの不等式という発想からすると混乱しそうですが,Bonferroniの方法=有意水準の調整という考えからするとこちらの方が自然なのかもしれません。
しかし,同じ名称で違う内容を指すことがあるというのはなかなか面倒です。
同じように,&color(darkorchid){''Holmの方法''};もいろいろな呼ばれ方をすることがあります。
単に“Holmの方法”といえば“Bonferroniの方法をステップダウン方式にしたもの”を指していると理解すればよいでしょう。
しかし,ときどき“Holm-Bonferroniの方法”とか“Bonferroni-Holm法”と呼ばれることがあるのです。
何でわざわざBonferroniをつけるのだろうと思っていたら“Holm-Sidakの方法”というものがありました。
&color(darkorchid){''Sidakの方法''};といえば,Bonferroniの不等式の代わりにSidakの不等式を使って有意水準を調整する方法です。
Bonferroniの方法と同じような仕方で多重比較に適用でき,Dunn-Sidakの方法と呼ばれることもあります。
そこで,“Holm-Sidakの方法”というのは,Holm(-Bonferroni)の方法のBonferroniの不等式を使っている部分をSidakの不等式に置き換えたものとわかります。
つまり,ステップダウン方式にして,ステップごとに調整値を減らすという部分はそのままに,不等式だけSidakにするのです(Holm-Sidakの方法については,Ludbrook, 1998を参照)。
そうすると,この場合“Holmの方法”という名称は,“Bonferroniの不等式+ステップダウン”の方法を指すのではなく“ステップダウン方式”だけを指すものと理解できます。
“Holmの方法”に“Bonferroniの不等式を使うこと”が含まれているとすると,“Holm-Sidakの方法”という名称が成り立ちません。
ところが,このように考えてしまうと,今度は“Holmの方法”という名称が何を指しているのかが不明瞭になります。
そこで,“Holmの方法”=“ステップダウン方式”という解釈の立場からは“Holm-Bonferroniの方法”と呼んだ方がよいことになります。
しかし,通常,何もつけない“Holmの方法”はやっぱり“Holm-Bonferroniの方法”を指しています。
結局,“Bonferroniの方法”だけでなく“Holmの方法”という名称にも2つの解釈があることになります。
(さらに,オリジナルの論文では,Holmの方法は現在よく普及しているバージョンのほかに,比較によって異なる重みづけをするバージョンも併せて提案されています:広津, 2003を参照。)
ちなみに,“Ryan-HolmステップダウンBonferroni法”“Ryan-Holm-Bonferroni”といった呼び方も見かけることがあります(Atkinson, 2002; Ludbrook, 2000)。
どんな複雑な方法なのかと思ったら,これは通常のHolm(-Bonferroni)の方法と同じものでした。
どうもステップダウン方式はHolmの専売特許ではなくRyanが始めたものなのだ,という点を強調するためにRyanの名前をつけて呼んでいるようです(Holmの論文は1979年,Ryanの論文は1960年の公刊です)。
この方法はステップダウン方式でステップごとに分母を1ずつ減らし,不等式は名前の通りBonferroniの不等式を使うので,実質,Holmの方法です(オリジナルのRyan法は減らし方が若干違います)。
こうしてみると,Holmの方法もRyan法の変法のひとつであるといえるかもしれません。
そうすると,Ryan法という名称にもまた新たな意味が……(発展形にREGW(Ryan-Einot-Gabriel-Welsch)法もあって,さらなる複雑性を添えてくれます)。
さて,Bonferroniの不等式を使った方法には,さらに&color(darkorchid){''Shafferの方法''};があります。
Shafferの方法はHolmの方法を発展させたもので,ステップごとに1ずつ調整値を減らすのではなく,論理的な成立可能性の見地から見て複雑な減らし方をする方法です。
この方法も“Shaffer-Bonferroniの方法”と呼ばれたりするのかと思っていましたが,残念ながらこのような表記を見かけたことはありません。
おそらく,この方法のSidak版の名称が“Holland-Copenhaverの方法”だからでしょう。
なぜ“Shaffer-Sidakの方法”と呼ばれないのかと尋ねられても困りますが,この方法を考えた人がHollandさんとCopenhaverさんなので仕方のないところです。
おかげで幸か不幸か,“Shafferの方法”は,Bonferroniの不等式を使った,論理的整合性に基づく調整を行う方法を指す名称としての地位を脅かされることはないようです。
(ただし,[[Shafferの方法自体の中に複雑なバリエーションがありますが。>http://riseki.php.xdomain.jp/index.php?ANOVA%E5%90%9B%2FShaffer%E3%81%AE%E6%96%B9%E6%B3%95%E3%81%AE%E3%83%90%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3]])
以上のような関係を表にまとめてみました。
|BGCOLOR(lightblue):|BGCOLOR(lightblue):CENTER:Bonferroniの不等式|BGCOLOR(lightblue):CENTER:Sidakの不等式|
|一律の調整|CENTER:(Dunn-)Bonferroni|CENTER:(Dunn-)Sidak|
|ステップごとの調整|CENTER:Holm(-Bonferroni)|CENTER:Holm-Sidak|
|論理的整合性に基づく調整|CENTER:Shaffer|CENTER:Holland-Copenhaver|
こうしてみるとそこまで不可解でもないのですが,この表全体を“Bonferroniの仲間”と呼ぶことができたり,“ステップごとの調整”を“Holmの方法”と置き換えることができるという点に混乱を招く要因があるのだと思います。
名称を統一しよう,と言うのは簡単ですが,多くの研究分野におられる多くの方々が様々な見地から多重比較法を使っているので,実際に呼び方を統一するのは難しいように思います。
以上,多重比較法の名称を多重に比較してみました。
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Atkinson, G. (2002). Analysis of repeated measurements in physical therapy research: Multiple comparisons amongst level means and multi-factorial designs. '''Physical Therapy In Sport''', ''3'', 191-203.
広津千尋 (2003). 多重比較法と多重決定方式. 竹内啓・広津千尋・公文雅之・甘利俊一 統計科学のフロンティア2-統計学の基礎Ⅱ-. 岩波書店 pp. 55-112.
Ludbrook, J. (1998). Multiple comparison procedures updated. '''Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology''', ''25'', 1032-1037.
Ludbrook, J. (2000). Multiple inferences using confidence intervals. '''Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology''', ''27'', 212-215.
RIGHT:(2008-07-09)
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