認知的断想/Baddeleyの謎 のバックアップの現在との差分(No.2) - 井関龍太のページ

ホーム   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS

認知的断想/Baddeleyの謎 のバックアップの現在との差分(No.2)


  • 追加された行はこの色です。
  • 削除された行はこの色です。
Alan Baddeley氏には,ある謎があります。

それほどの重大事ではないのですが,このことに気づいて疑問に思っている方も何人かはおられるのではないかと思います。
……と大げさに書くほどの重大事ではないのですが,このことに気づいて疑問に思っている方も何人かはおられるのではないかと思います。
それは,Baddeleyの引用文献に関するものです。

Baddeley & Hitch(1974)は,Baddeleyのワーキングメモリのモデル,&color(darkorchid){''複数成分モデル(multi-component model)''};が提唱された論文として有名です。
この論文は,ワーキングメモリの起源を語るときには欠かせないもので,広く引用されています。

しかし,Baddeley自身の書いた文献において,この文献のソースが頻繁に違っているのです。

この論文は,“The Psychology of Learning and Motivation”という,年に1冊か2冊刊行される,ハードカバーのレヴュー専門誌に掲載されています。
ですから,おそらく,正しい引用は以下のようになると思います。

>Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1974). Working memory. In G. H. Bower (Ed.), '''The psychology of learning and motivation, Vol. 8''' (pp. 47-89). New York: Academic Press.
<
しかし,Baddeley自身の論文等では,ときどき,以下のような形で引用されているのです。

>Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1974). Working memory. In G. A. Bower (Ed.) '''Recent advances in learning and motivation''' (vol.8, pp. 47-90). New York: Academic Press.
<
掲載誌名が違っています(この例では,ページ数も違っています)。
おそらく,こんな誌名の本はないはずです。
[[NACSIS>http://webcat.nii.ac.jp/webcat.html]]の検索にも引っかかりません。
少なくとも,私は“The Psychology of Learning and Motivation”からこの論文をコピーできたので,こちらの方が存在することは確認できました(ただ,この本のサブタイトルには,“Advances in Research and Theory”とあるので,これが何か関係しているかもしれません)。
[[CiNii Books>http://ci.nii.ac.jp/books/]]の検索にも引っかかりません。
少なくとも,私は“The Psychology of Learning and Motivation”からこの論文をコピーできたので,こちらのほうが存在することは確認できました(ただ,この本のサブタイトルには,“Advances in Research and Theory”とあるので,これが何か関係しているかもしれません)。

こんな有名な論文を,しかも,著者自身が間違って引用するというのは,不思議なことのように思えます。
とは言っても,人間ですからちょっとくらい間違うこともあるかもしれません。
しかし,問題はこの表記が何度もくりかえし使われているところにあります。
しかも,“The Psychology of Learning and Motivation”の方と“Recent Advances in Learning and Motivation”の両方が混在して使われているのです。
しかも,“The Psychology of Learning and Motivation”と“Recent Advances in Learning and Motivation”の両方が混在して使われているのです。

手元にあったBaddeleyの論文の引用文献欄を見て,Baddeley & Hitch(1974)のソースがどのように表記されているかによって分類してみました。
もちろん,網羅的なリストではないので,その点はご承知ください。

-The psychology of learning and motivationとなっているもの
--Baddeley, A. (1996). 
--Baddeley, A. (2000). 
--Baddeley, A. D., & Andrade, J. (2000). 

-Recent advances in learning and motivationとなっているもの
--Baddeley, A. (1986).
--Baddeley, A. D. (2002). 
--Baddeley, A. (2003).
--Baddeley, A. (2007).
--Repovs, G., & Baddeley, A. (2006).

-The psychology of learning and motivationとなっているが,ページ数が47-90となっているもの
--Baddeley, A., & Della Sala, S. (1996).
--Jefferies, E., Lambon Ralph, M. A., & Baddeley, A. D. (2004).

>(現物では,89ページまでがBaddeley & Hitch(1974)の論文で,90ページが白紙,91ページから次の論文なので,47-90の表記もあながち間違いではないのかもしれません。)
<
まとめてみてわかるのは,明確なパターンがつかめないということです。
ある時期から間違いに気づいて修正した,というのならわかるのですが,このリストでは,どちらかというと,新しい文献の方でたくさん“Recent Advances...”が使われています。
ある時期から間違いに気づいて修正した,というのならわかるのですが,このリストでは,どちらかというと,新しい文献のほうでたくさん“Recent Advances...”が使われています。
また,別の著者との共著であれば誤りが修正されやすいかとも思ったのですが,そうでもなさそうです。
単著でも共著でも,両方の表記が見られます。
ついでに言うなら,Baddeleyが論文に表記する氏名にミドルネームを入れたり入れなかったりする基準も気になります。

それにしても,どうしてこのようなことが起こるのでしょうか。

Baddeley先生がこだわらない方であるという可能性もあります。
現に,Baddeley(2007)の引用文献欄では,Baddeley & Hitch(1974)が少し表記を変えて2回カウントされたりしています(他にも,この本の引用文献欄は結構適当な気が……)。

ただ,そうだとしても,なぜBaddeley & Hitch(1974)ばかり誤るのかは謎です。
Baddeley & Hitch(1974)以外の文献がすべて正しく一貫して表記されているかは保証の限りではありませんが,少なくとも,上で挙げたいくつかの論文はBaddeley自身の論文の文献欄からさかのぼって入手したものなので,どんな論文もいつも間違って引用しているわけではないと思います。
また,この考えにしたがうなら,Baddeley & Hitch(1974)に限っても,一貫して間違うのではなく,もっとでたらめに間違っていてもよさそうです。

一度ならず,二度も三度も一貫した形で誤るということは,おそらく,同一のソースがあるのではないかと推測されます。
つまり,Baddeleyは,引用文献欄を作るときに使うリストを持っているのではないでしょうか。
そのリストに記載されたBaddeley & Hitch(1974)のソースが誤っているために,後の論文でもその誤りが反映され続けているのではないかと思います。

しかし,この考えに基づくと,同時期に誤った表記の論文と正しい表記の論文が並存したり,誤ったものが正しくなったり,その逆が起こったりしているのはおかしいように思います。
そこで,リストは複数ある,という考えが浮かんできます。
しかし,せっかくの文献リストをなぜわざわざ複数に分けておかなければならないのでしょうか?
リストにするのは,以後,それを常に使うことで作業を効率化するためではないでしょうか。
それなら,一本化しておくのが妥当なやり方のような気がします。
それなら,一本化しておくのが妥当なやりかたのような気がします。

また,仮にリストを使っていたとしても,著者本人なら何度か使っているうちに誤ったソースが表示されることに気づきそうなものです。
ひょっとしたら,引用文献欄は秘書とか助手のような別の人が作っているのかもしれません。
そして,秘書ごとに使っているリストが違うと考えれば,説明がつかないでしょうか。
しかし,秘書の間でリストを共有すればいいことのような気もします。
よっぽど秘書同士の仲がよくないのでしょうか?

もしかしたら,Baddeleyの記憶は複数のコンポーネントに分かれているのではないでしょうか。
そして,そのとき使っているコンポーネントによって,出典として想起される内容が違ってくるのかもしれません……。
&br;
最後に,ふと気になって,[[Web of Science>http://portal.isiknowledge.com/]]でBaddeley & Hitch(1974)がどのような形でどのくらい引用されているのかを調べてみました。
最後に,ふと気になって,[[Web of Science>http://ip-science.thomsonreuters.jp/products/wos/]]でBaddeley & Hitch(1974)がどのような形でどのくらい引用されているのかを調べてみました。
Web of Scienceでは,引用する際の表記の誤りは別の文献としてカウントしてあります。
例えば,1-9ページの論文を誤って1-10ページと引用していた場合,別の論文としてカウントされるようです。

そこで,“The Psychology of Learning and Motivation”と“Recent Advances in Learning and Motivation”のそれぞれの引用件数がわかるだろうと思ったわけです。
結果は,“The Psychology of Learning and Motivation”が1,103件,“Recent Advances in Learning and Motivation”が274件でした。
細かな違い(巻号,ページ数がずれるなど)はこの数に含めてないので,実際にはもう少し多いことでしょう(また,上の検索は“Baddeley AD”による結果で,“Baddeley A”の場合とは異なるようです)。

しかし,274件とは……。
このすべてがBaddeley自身による引用とは考えにくいでしょう。
実際,この引用をした文献には,他の著者による論文も含まれていました。
皆さん,どこで“Recent Advances in Learning and Motivation ”を手に入れているのでしょうか。
もしや,これは誤りではなく実際に存在する文献なのでしょうか?

----
Baddeley, A. (1986). '''Working memory.''' UK: Oxford University Press.
Baddeley, A. (1996). Exploring the central executive. '''Quarterly Journal of Experimental Psychology, 49A,''' 5-28.
Baddeley, A. (2000). The episodic buffer: A new component of working memory? '''Trends in Cognitive Sciences, 4,''' 417-423. 
Baddeley, A. D. (2002). Is working memory still working? '''European Psychologist, 7,''' 85-97.
Baddeley, A. (2003). Working memory: Looking back and looking forward. '''Nature Reviews Neuroscience, 4,''' 829-839.
Baddeley, A. (2007). '''Working meory, thought, and action.''' UK: Oxford University Press.
Baddeley, A. D., & Andrade, J. (2000). Working memory and the vividness of imagery. '''Journal of Experimental Psychology: General, 129,''' 126-145.
Baddeley, A., & Della Sala, S. (1996). Working memory and executive control. '''Philosophical Transaction of the Royal Society of London B, 351,''' 1397-1404.
Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1974). Working memory. In G. H. Bower (Ed.), '''The psychology of learning and motivation, Vol. 8''' (pp. 47-89). New York: Academic Press.
Jefferies, E., Lambon Ralph, M. A., & Baddeley, A. D. (2004). Automatic and controlled processing in sentence recall: The role of long-term and working memory. '''Journal of Memory and Language, 51,''' 623-643.
Repovs, G., & Baddeley, A. (2006). The multi-component model of working memory: Explorations in experimental cognitive psychology. '''Neuroscience, 139,''' 5-21.

RIGHT:(2007-08-06)
&tag(記憶);


TrackBack(0) | 外部リンク元 | このエントリーをはてなブックマークに追加