認知的断想/記憶の一般法則は存在しない の変更点 - 井関龍太のページ

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認知的断想/記憶の一般法則は存在しない の変更点

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Annual Review of Psychologyという,年に一冊ずつ刊行されるレヴュー専門誌があります。
心理学以外にもいろいろな学問のAnnual Reviewがあり,各分野の各トピックについての近年の動向をまとめた論文が掲載されます。
Annual Review of Psychologyの今年の号には,記憶研究で有名なHenry Roediger氏による長期記憶に関するレヴューが掲載されました。
この論文の主要テーゼが,タイトルに掲げた通りで,「記憶の一般法則は存在しない」「記憶に関するすべての主張は限定されなければならない(must be qualified)」なのです(Roediger, 2008, p. 227)。

そして,以下のようなトピックのいずれについても,「××による(it depends)」と言わねばならないとして,関連する知見を紹介しています。

-反復は記憶を向上させるか?
-分散提示は集中提示よりも優れているか?
-深い(有意味な)処理は,浅い(意味を欠く)処理に比べて,保持を高めるか?
-学習材料の生成(または,アクティブな関与)は,受動的に読むだけに比べて,保持を高めるか?
-イメージや絵は語よりも記憶に残りやすいか?
-時間の経過は忘却を生じるか?

そもそも,近年では,心理学の論文において“法則”という語自体が使われなくなってきているようです。
“law”という語は,1900~1909年では10,000本のアブストラクトにつき266回言及されていたのに対して,1990~1999年では10回しか言及されていないそうです(Roediger, 2008で引用されているTeigen, 2002の報告に基づくデータです)。

もちろん,Roedigerは,記憶研究において法則など見つからないと言っているのではなく,現在の状況は不十分であることを指摘し,今後の研究を促しているのです。
頑健に思われた効果も,遅延時間やテストのタイプによって変化すること,被験者間計画にするか被験者内計画にするかといった,どちらかといえば,研究者の興味の中心にはないと思われるような変数によって違ってくることなどが指摘されています。
それにしても,「繰り返し勉強することは有効である」とか「時間が経つと忘れやすい」といったことさえ一般的には主張できないというのは残念な気がします。

ちなみに,この論文は,上のような主張の当てはまる事例として,処理水準効果の研究を特に大きく取り上げているので,処理水準の研究って結局どうなったんだっけ,という方にもお勧めです。

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Roediger, H. L. III (2008). Relativity of remembering: Why the laws of memory vanished. '''Annual Review of Psychology''', ''59'', 225-254. [[[Link to 著者ページ]>http://psych.wustl.edu/memory/roediger.html]]

RIGHT:(2008-02-04)
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